東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)247号 判決
一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 本願意匠と引用意匠の各構成が審決認定のとおりであることは原告の認めるところであり、両意匠を対比すると、審決認定のとおり請求の原因三1(一)に示される差異があることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二、第三号証の各二によれば、両意匠には、請求の原因三1(二)で原告の主張する差異があることが認められる。
一方、右各甲号証によると、本願意匠と引用意匠はともに、意匠に係る物品において一致し、意匠の基本的性質を決定すると認められる主要な構成においても次に述べるとおり一致しているものと認められる。
すなわち、まず、その本体は、覆枠の基本的形状を円形盤体状にし、その係合面側には面内中央に小円形状の係合孔を形成し、係合孔から覆枠周側面周縁までの係合面を一体に形成した平板面状とし、その周側面は係合面に対して直立状にしている。本体の取付け面側は、取付け基板の形状を覆枠の内側周縁と同一の円形板状とし、その上に基板と同形の座板を置いて取付け枠とし、脚体につき、先端が丸みを帯びた細幅帯状の取付け脚片一対を並行に対向状に座板と連続状に直角に突起するように形成し、取付け枠を覆枠の周縁端に等間隔に六個設けた止め爪によつて固定したものとしている。次に、掛具は、保持板の基本形状を覆枠と同一の直径の円形平板状にし、その係合面側には面内中央に直径を覆枠の係合孔よりも一回り小さい小円柱状の係合突起を突設し、取付け面側には、脚体につき、本体の脚片と同形同長の取付け脚片一対を平行に対向状に座板と直角に突起するように形成し、この座板を保持板の中央に鋲止めにしたものとしている。
2 そこで、右の主要な基本的構成を前提に、両意匠の前記相違点について検討する。
まず、本体の係合孔の直径の差異(相違点(1))は、これを見る者をして引用意匠の方が本願意匠におけるよりもやや大きめの係合孔が存する程度の印象を与えるにすぎず、止め爪の形状の差異(相違点(2))は、取付け面側において覆枠周縁端に等間隔に六個止め爪が設けられているとの構成に比して、ほとんど見る者の関心を引かない程度の微差にすぎないと認められる。また、本体の覆枠における係合面の直径と周側面の幅の比の差異(相違点(7))も、本願意匠におけるほぼ四対一に対し引用意匠においてはほぼ五対一であつて大差はなく、係合面と周側面との接縁の形状の差異(相違点(7))を含めて観察しても、両者はほぼ同じ円形盤状体であるとの印象において同じであり、これをもつて両者を区別するに足る特徴ということはできない。本体及び掛具の取付け脚片の突出端の形状の差異(相違点(4))、掛具の係合突起の頂端周縁の形状の差異(相違点(5))は、特にその部分に注意を向けることによつてはじめて気付く程度の微差にすぎないと認められる。
これに対し、本体と掛具の各取付け脚片の間隔、脚片の長さの覆枠の周側面の幅との比における各差異(相違点(3)、(8))、掛具における係合突起の直径と保持板の直径との比、係合突起の直径とその長さとの比における各差異(相違点(9)、(10))は、いずれも本体又は掛具から突出した部分の差異であり、また、掛具における座板の形状の差異(相違点(6))は掛具の取付け面側を一見すれば気が付く部分の差異であり、これらは、いずれも見る人の注意を一応引くに足る相違ということができる。しかしながら、これらの相違点に係る各個の形態が係合具あるいはスナツプ等の意匠の属する分野においてそれぞれ周知の形態であることは原告も認めるところである。そして、これらの差異を前記本願意匠と引用意匠がともに有する意匠の基本的性質を決定する主要な構成のうちにおいて見ると、これらの差異は、あくまでも主要な基本的構成を同じくする係合具において、僅かにその脚片、係合突起及び掛具の座板を部分的に他の既存の形態に改変した結果生じた差異と認識させるものにすぎないと認められ、これをもつて両意匠から生ずる美感が相当程度きわ立つて異なり両意匠を意匠として別異のものと認識させるに足りる特徴とまでいうことはできない。
そして、両意匠の差異が右に認定したとおりのものにすぎない以上、これらの差異をすべて考慮に入れて両意匠を観察しても、両意匠は、その一致する主要な基本的構成から生ずる美感を同じくするものと認められ、これを別異のものとするとは到底認めることができない。そうすると、原告が請求の原因三3において主張するところのこの種係合具の取引面における意匠的識別の実情を考慮に入れても、両意匠は、結局、類似の範囲を出ないものといわなければならない。
3 以上のとおりであるから、本願意匠が全体として引用意匠に類似するものとした審決の判断は正当であり、審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
訴外金明玉は、昭和五四年一二月四日、意匠に係る物品を「係合具」とする別紙(一)記載の意匠(以下、「本願意匠」という。)につき、意匠登録出願をした(同年意匠登録願第五〇六九三号)が、昭和五五年一一月二七日に拒絶査定を受けたので、昭和五六年二月二八日、これに対し審判の請求をした。特許庁がこれを同年審判第二九四九号事件として審理中、原告は右金明玉より本願意匠の意匠登録を受ける権利を譲受け、同年九月二日、意匠登録出願人名義変更届を特許庁に提出した。特許庁は、昭和五八年九月五日、右審判事件につき、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一一月九日、原告に送達された。
二 審決の理由
(中略)審決は、意匠に係る物品を「鞄・ハンドバツク用錠前」とする昭和五〇年意匠登録願第三五四一九号意匠(以下、「引用意匠」という。別紙(二)のとおり。)を引用し、本願意匠は全体として引用意匠に類似するものであり、意匠法九条一項の最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないものであるから、意匠登録を受けることができないとした。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙 (一) ―本願意匠―
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別紙 (二) ―引用意匠―
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